けむのみち KEMUNOMICHI
収録曲
1.ひかりよ
2.煙蛇 <MV>https://youtu.be/9ATsZmjdgEo
3.春の怪物のマーチ
4.どうどう
5.竜宮のつかい
6.火踊り
7.愉快なハネムーン
8.漂着
9.花もよう
品番: MLHP-1002
format: CD
label: melharp
MEMBER
畑下マユ
歌、ガットギター
コーラス
挿絵
潮田雄一
エレキギター
リゾネーターギター
ガットギター
てんこまつり
ピアノ
オーボエ
今成哲夫
コーラスと電子オルガン(4.どうどうへのゲスト参加)
波の録音
斉藤友秋
録音(畑下のガットギターと歌、オーボエ)
ミックス
マスタリング
森綾花
ジャケット絵
柏木辿
ジャケット文字
元山ツトム
デザイン協力
~取り扱い店~
【レコードショップ】
Record Shop Reconquista(通販専門)
more records(埼玉)
CAT NOISE (岐阜)
JET SET(京都、下北沢)
【書店】
本の栞(神戸)
六本松 蔦屋書店(福岡)
MINOU BOOKS(久留米、うきは)
my chair books(熊本)
【ライブ会場】
ミングル(京都)
DNA PARADISE KYOTO(京都)
~リリースライブ~
11/16(土)神戸「本の栞」
畑下マユ/潮田雄一
11/17(日)京都「UrBANGUILD」
畑下マユ+潮田雄一/風の又サニー
11/24(日)東京「七針」
畑下マユ+潮田雄一/白目と高良真剣
12/5(木)小倉「cotton dancer」
畑下マユ/藤井邦博/やないけい
12/6(金)福岡「秘密」
畑下マユ/藤井邦博+juzo+松岡怜央/
nape's/にしやまひろかず
12/19(木)名古屋「KDハポン」
畑下マユ/岡山健二
12/20(金)東京「ひかりのうま」
畑下マユ/飯島はるか
12/22(日)長野上田「と」
畑下マユ/ささきりょうた
『けむのみち』推薦コメント
不思議な霊性を帯びていると思う。サイケデリックとは違った文脈での幻想性を感じるという点において、ヒルデガルト・フォン・ビンゲンや西森千明を思い出した。音に宿る神秘性が祈りのような慎ましやかな感性に溶けていく様子がとてもよく似ている。
ヒルデガルトのいう“幻視”とは祈りにも近いのかもしれないが、確かに信仰のように音楽を聴く/作る人もいるだろう。そもそも音楽とは?西洋音楽とは?民族音楽とは?抱えがちな大きな問いには無頓着に、クラッシックやエキゾチシズムを巻き込み、仄かにブルース性を強めたフォークがここにある。歌は祈りかもしれないし、幻かもしれない。そんな強さと儚さが純度の高い透明感に満ちた音空間の中を揺れ動いていく。
『けむのみち』が映し出すその影と光に、見とれるように耳を澄ました。
―清水久靖(Record Shop Reconquista)
まだ変に暖かい11月、畑下さんの怒涛のレコ発ライブにニ度も参加させてもらい、つかれはて、すりガラスの目、土くれの頭、竹馬の足で、友人の古着屋がオープンしたというから、仕事帰りに寄った。そしたら、“ひかりよ”が小さな音でかかっていた。その時に、気持ちのいい土砂崩れが、心の中でおきた。けむのみち。ずっと、静かに震えている空気が貫かれてて、圧倒的。
―今成哲夫
アルバム制作にまつわるエピソード
2024.12.2✏
―前作からの流れ
“2ndアルバムは、1stの終わりの曲「ちるちるみちる」から繋がっていて、対にもなるテーマで作れたらいいな。”2022年2月に1stアルバム『ちるちるみちる』を発表する少し前からそのような思いを持ち続けていました。2023年の年明けに、まさに爆発と言っていいような勢いで、今回のアルバムの収録曲(火踊りと春の怪物のマーチを除く)が次々と生まれ、それらを並べてみると、前作からの流れと新たなテーマがはっきりと浮かび上がりました。ほどなく『けむのみち』というタイトルを思いつき、意識は2ndアルバムの制作に向かい始めました。
―斉藤友秋さんとの出会い
『ちるちるみちる』を発表して数か月経った頃、東京と長野への遠征ライブを計画していました。共演者を探していたところ、ガットギターで独特な音楽をやっている斉藤友秋さんの存在を知り、SNSを通じて斉藤さんに、東京か長野で共演してもらえないか相談しました。すると驚いたことに斉藤さんは私のアルバムを既に入手し知ってくださっていて、さらには「ちょうど東京から長野に移住する予定なんです」という返事。こうして、2022年7月に長野県松本市のライブでの共演が決まりました。
―てんこまつりさんとの出会い
「妻がオーボエをやっていて、数曲一緒に演奏しようと思います。」斉藤さんはそう言い、松本のライブにてんこまつりさん(純那さん)を連れてきてくれました。ライブで純那さんは、変わった独特なフレーズをオーボエで吹いていて、私は恍惚となりました。ライブが終わり、打ち上げでたっぷり話をして心が温まった帰り道、純那さんが私に「マユさんの音楽にいつかオーボエで参加してみたい」とふと打ち明けてくれました。そのとき即座に私の頭には、次のアルバムに収録しようと思っている「火踊り」という曲が浮かびました。この曲は2020年、ギターで色々なフレーズを探ることに夢中になっていた時に生まれた曲で、アラビア音楽の雰囲気があります。そこで純那さんに、「オーボエが合いそうな曲があるので、次のアルバムを録ることが決まったら連絡します」と伝えて別れました。
―レコーディングが始まる
2ndアルバムの録音をどうしようか本格的に悩んでいた頃、ひとまず純那さんに参加してほしい曲のデモをお送りしたところ「斉藤さんが録音もできますよ」と教えてくれました。斉藤さんが録った作品はいくつか聴いており、その素直な音が気に入っていました。そこで斉藤さんにお願いをし、1回目のレコーディングを2023年の7月に、2回目は8月に(ちょうど夏祭りの時期でした)、長野県上田市にある斉藤さん夫婦のご自宅で行いました。川のほとり、広い庭のある素敵な長屋のおうちでした。真夏だったため、高温になる日中は避け、朝と夜に録音しました。どこへ行っても草木のいい匂いでいっぱいで、夜には星がたくさん、虫もたくさん鳴いていました。夜には必ず虫の声が、朝には時々鳥の声が録音されてしまう為、朝には朝が合う曲、夜には夜が合う曲を選んで録りました。録音されてしまった鳥や虫の声も探してみてください。
―上田での思い出
レコ―ディング中、ずっとそばで演奏を聴いてくれていた純那さん。この頃、純那さんのお腹には赤ちゃんがいました(現在は無事出産されました)。演奏を何度も失敗しレコ―ディングを長引かせてしまう私を申し訳ない気持ちにさせないよう、ずっと励まし続けてくれました。料理人である斉藤さんが、朝昼晩、地元の野菜を使った料理を作ってくれ、夜は車で3人で温泉に行きました。地元の人が通う、小さいけれど旅館のように温かみのある温泉や、少し離れた山奥の別荘地のような場所にあるログハウス風の温泉や(道路に巨大なウシガエルがいました)、硫黄のにおいがする温泉、色んな温泉に連れて行ってくれました。斉藤さんのお店、カレー屋「と」にも寄り美味しいカレーをいただきました。斉藤さんのカレーは、辛くなく、野菜やお肉・お魚などの素材の味が生きていて毎日食べられる優しいスパイスカレーです(日替わりカレー有)。斉藤さんがカレーの準備をしてくれている間、お店に置いてあるピアノで遊びました。私は全然弾けませんでしたが、純那さんがドビュッシーの「アラベスク第一番」をおもむろに弾き始め、続けて「月の光」を弾いてくれ、私は大好きなこの2曲にうっとりと聴き惚れました。聴きながら、純那さんにピアノでも参加してもらおうと考えていました。
最終日、不思議なことがありました。8月に再度上田を訪れ数曲録り直しを行ったときのこと。夜、火踊りという曲が何度も失敗し、録れないかもとあきらめそうになっていました。すると大きくて白い蛾が一匹、窓の外に現れました。斉藤さんの「はい」という、録音開始の合図があった後も蛾はずっとバサバサと大きな羽で羽ばたいていてくれ、私はそれに見とれながら演奏をし気づけば録れていました。録音を聴いてOKなのを確認し、もう一度窓に戻ると蛾はいなくなっていました。
無事すべての録音が終わり帰る日の朝、電車に遅れないよう慌てて準備をして出ていく時、斉藤さんが縁側に置かれたサンダルに蝉が止まっているのを発見しました。近づいてよく見ると、蝉(恐らくミンミンゼミ?)は羽化している最中でした。夜の間に白い体はほとんど乾き緑が濃くなってきていて、片方の羽の先だけがまだくしゅっと縮んでいました。その縁側は夜に蛾がやってきた縁側でした。私は上田で体験させてもらった様々な出来事を思い返し、改めて感謝の気持ちと神聖な気持ちを持ってレコーディングをしめくくることができたのでした。
―潮田雄一さん
今回のアルバム『けむのみち』には、様々なバンドで活躍されている潮田雄一(うしおだ ゆういち)さんが、3種類のギターで参加してくれています。
ギターをお願いしたのは、上田でのレコーディングが終わって落ち着いた9月頃でした。潮田さんは快く引き受けてくださり、半年ほどかけ自宅で録ってくれました。潮田さんは東京住まいですので、録れたデータをまず私に送ってもらい、OKなら斉藤さんがミックスをする、という流れでした。私から事前に「こう弾いてほしい」という要望は伝えなかったのですが、最初に送ってきてくれた「煙蛇」を聴いた瞬間、とてもよく曲を捉えてくれていることに驚きました。その次に録ってくれた「春の怪物のマーチ」はリゾネーターギターで弾いてくれていて、クラシカルな雰囲気の「愉快なハネムーン」はガットギターで弾いてくれました。1曲1曲送られてくるごとに深く感動し、自分でも気づかなかったそれぞれの曲の新しい側面に気づいたりしました。
潮田さんとの出会いは2020年2月。神戸のライブでご一緒し、その時の即興演奏に衝撃を受けました。まるで眠りながら、生き物のようなギター(うごめいたり、引っ搔いたり、大きくなったり、小さくなったり)を弾いていて、エレキギター1本でこんなに色んな表現があるのかと感動し、私はその衝動を引きずったままギターを弾くことに夢中になっていきました。この頃に生まれた「火踊り」「春の怪物のマーチ」は今回のアルバムに収録しています(火踊りは潮田さんは参加していませんが)。激しさと繊細さを合わせ持つ潮田さんのギターをぜひ味わってほしいです。
―今成哲夫さん
風の又サニー。今成哲夫さんはそのバンドで歌とピアノを担当されています。哲夫さんのロマンあふれる歌とピアノに、私は初めて聴いたとき虜になりました。『けむのみち』の4曲目、「どうどう」ができた2023年の年明け、私はこの曲が哲夫さんが歌っても似合いそうな曲ではないかとにわかに思いましたが、この頃哲夫さんとは接点がありませんでした。哲夫さんが斉藤さんやてんこまつりさんと深い交流があることをレコーディングの時に初めて知り、何か運命的なものを感じました。
2024年4月、潮田さんとてんこまつりさんの録音も進んできていた頃、哲夫さんが佐藤玲さんとやっているユニット「白目」が京都に来ることが分かりました。私はそれを観に行ったのですが、会場に入ると哲夫さんがいたので、話しかけてみようと思い近づくとなぜか哲夫さんが私を見て「畑下さん?」と言いました。哲夫さんは私のことを知っているはずはないと思っていたのでびっくり仰天していると、「斉藤さんから、録音のこと色々聞いてて」と、知ってくれていたのでした。そしてこの日初めて観た「白目」の音楽は、風の又サニーの時と違った形で私に大きな感動を与えてくれました。その後、斉藤さんと純那さんにも相談し、哲夫さんにコーラスでゲスト参加してもらうことにしました。コーラスだけでなく「電子オルガンは、おまけ」と、オルガンも録ってくださいました。さらに「漂着」で波の音が欲しいことを伝えると、お住まいである横須賀の近くの海で、玲さんと一緒に波の音を録音してきてくれました。「漂着」のどのタイミングで波の音が入ってくるか、お楽しみに。
―ジャケット制作
1stアルバム『ちるちるみちる』でジャケット内部の絵を描いてくれた森綾花さんに、今回は表紙の絵をお願いしました。最初、「部屋か外か分からない景色を描いてほしい」「蛇が出てくる曲がメイン曲になる」などを伝え、それをもとにいくつかラフ画を描いてくれました。後ろにあるカーテンや椅子の雰囲気などが、同時進行で進めていたミュージックビデオの最初のシーンに似ていて密かに驚きました。蛇のように渦巻く星、2羽の鳥、本など、森さんが考えてくれました。
森さんの絵が完成し、ジャケットのデザインを考案している頃、京都のライブで柏木辿(かしわぎ てん)さんと出会いました。柏木さんは国内外問わず様々なアーティストのフライヤーを描いたりして活躍されています。地元の長野に戻られる直前の個展にうかがった際、柏木さんの書く字がけむのみちのタイトルに合いそうだと思い、文字をお願いしました。
ジャケットと歌詞カードのデザインは、前作『ちるちるみちる』の時と同じく自分で考案したのですが、設計を今回は元山ツトムさんにお願いしました。元山さんは前作で録音とペダルスチールを担当してくれていて、「なんで演奏の方で呼んでくれへんねん~」と言いました。設計、印刷所との打ち合わせ、組み立てに至るまで、リリースライブまでの日が迫り大ピンチなところを全力で手伝ってくださいました。ジャケットは、リソグラフ印刷機を借り(gamoyon Art laboさんでお借りしました)、一枚一枚刷りそこから切り出して組み立てました。「制作エピソードで、めちゃくちゃ良いように書いてくれよ。割に合わんで」と言われるくらい沢山の時間と労力をかけてくださいました。
―テーマについて
ここからは種明かしを含みます。1stアルバム『ちるちるみちる』の根本テーマは、始まり、希望、水、空でしたが、今回のテーマは、道、苦悩、火、地です。タイトル『けむのみち』は、「煙の道」です。未来が見えず、帰る道もわからず、迷いの渦の中。そこでもがきながら、いつか自分の力で苦しみから抜け出す道を見い出せるようにという祈りも込めています。苦悩がテーマですが、素晴らしいアンサンブルのおかげで、面白いアルバムになりました。
冒頭に話が戻りますが、当初“2ndアルバムは、1stの終わりの曲「ちるちるみちる」から繋がっていて、対にもなるテーマで作れたらいいな。”に加え“2ndアルバムが1stアルバムと対になり、ようやく完結する”という構想もありましたが、そうはならず、次回作へ続きそうな雰囲気で終わりました。3rdアルバムもどうぞお楽しみに。